「選択の科学」を読む

参考文献 選択の科学 シーナ・アイエンガー

選択という問題を様々な角度から扱った本だ。著者の主張通り「選択」は人生を形作るものだろう。従って確かに「選択」について考えることは有益だろうと思う。本書は行動経済学をベースに多岐にわたる視点から選択について考えている。選択肢が多すぎるとかえって満足できないというのは、自由の哲学からは大変な問題であるが、人間行動としてはそうなのであろう。著者の選択肢が多すぎるとかえって購買意欲が落ちるという発見はジャムの定理として既にビジネスには既に応用されているようだ。また、著者はあふれる選択肢に対処する方法も簡単にまとめており、ライフハック本としても役に立つ。

本書に出てくるミネラルウォーターや化粧品の話はとても興味深い。中身にさほど違いのない商品がマーケティングの力で大きな価格差がついて売られている。しかも化粧品の場合、同じ企業が別のブランドで価格差を付けて売っているのだ。経済学で言う情報の非対称性や差別価格の問題になるのだろうが、確かに大企業への不信感が募るのも感情的には理解できる。
実は、大企業への不信感に付いては、以下のように進化論的に捉えていた。人間の思考パターンは小規模な群れ*1に適応しているから、薄く広く利益を上げることで成長している企業を見ると、なんとなく「狭い範囲から大きくかすめ取っている」イメージになるのだろうと。
だが、本書を読んで、シグナルがシグナルだと気付いた場合は不信感の原因になるのだと思った。シグナルに価値を見いださないあるいは見いだしたくない人は自分で情報を集めるしかないのだろう。

リバタリアニズムからは著者の主張に賛同できない部分もあるが、内容は面白いし、考えさせられる良書である。クライアントに選択してもらうような仕事をしている人にもお勧めの一冊だ。

*1:本により違うが150人から300人か。