ポリオ

以前、蔵さんがポリオワクチンのことでエントリをアップされていた。少し情報を追加しつつ私の考えをまとめてみよう。


まず、ポリオに対して、現在の日本で公的な予防接種として使用されているのは生ワクチンであることを確認しておこう。生ワクチンとは、弱毒化してある生きたウイルスをワクチンとして使用することを言う。生きたウイルスを使用する以上、ごくまれにではあるが、通常のポリオウイルス感染の経過を辿り、急性灰白髄炎(脊髄性小児麻痺)に至ることがある。幸い、日本のポリオワクチンとして採用されている弱毒株の安全性は極めて高く、副反応は約300万件に1回だとされている*1
これに対して、不活化したつまり感染することのないワクチンを使用することもでき、世界的には実際に使用されている。

では、生ワクチンと不活化ワクチンの比較をしてみよう。

生ワクチン
抗体価がよく上昇する。ウイルスが糞便中に排出され、二次感染を起こすことがある。
経口投与が可能である。腸管免疫が強力に誘導される。
免疫不全の子供に使用するのは危険。

不活化ワクチン
二次感染はない。急性灰白髄炎の発症は考えにくい。免疫不全の子供にも使用できる。


ポリオの野生株による感染を一気に激減させる方法としては、最初は生ワクチンを一斉投与という方法が歴史的には望ましかったと言っていいだろう。排泄されたワクチン株がワクチン投与されていない子供に感染することで、更に二次的なワクチン接種に至っていた可能性も考えられる。日本でも生ワクチン接種開始後にポリオが激減している。
ただ、途上国ならいざ知らず、1994年以降*2、野生のポリオ発生が見られない日本で生ワクチンを継続する意義は薄れて来ているのも事実だ。現在の日本で発生するポリオはワクチン株由来というのが事実だからだ。アメリカでは不活化ワクチンに移行して特に問題は起きていない。おそらく、日本でも行政主導のままポリオ対策を行うなら、不活化ワクチンに移行する時期だろう。

今回はワクチン行政を自由化することなどに付いての考察はないが、少なくとも現状でもワクチンの種類を変えることは正当化できる。税金を使って公共の福祉という名目で行う事業である以上、よりよい制度を諸外国から学んでもらいたいものだ。

*1:株によってデータが多少違うようだ

*2:急性灰白髄炎ではないが、84年に脳炎の女児から、93年に上気道炎の男児からポリオの野生株が分離されている