司法政策の法と経済学

読了した。簡単に内容の紹介と感想など。
まず、この本は「法と経済学」の入門書ではない。経済学への興味からこの本を手に取った私には法律の用語が重たい。にもかかわらず興味深く読み進むことができた。リバタリアニズムの議論で必ず出てくるポイントが具体例で解説されており、興味深い。著者自身はアナルコキャピタリストではなく政府を肯定しているが議論の大部分は帰結主義的なリバタリアンの賛同を得られると思う。


この本で著者は、一貫して司法制度の改革を訴えている。その根拠となるのは、市場の力によるサービスの改善、コースの定理による社会問題の問題解決などである。司法政策に限ってだが、法と経済学の具体的な問題に接することができる。また、第3章は法と経済学の簡単な入門になっている。ここだけ読むのもおすすめである。いくつかの論文・講演を編集したため、結果的に法と経済学を武器に司法政策上の問題点をいくつか切ってみせる形になっている。


以下、個別の問題に付いてまとめてみる。
司法試験制度では、国家の介入よるサービスの低下を分析している。最終的に国家が質を補償するべきか否かを抜きにすれば帰結主義的なアナルコキャピタリストの主張とほぼ同じである。競争による法曹サービスの向上は日本にとって絶対に必要であろう。また、行政の裁量を制限することや法の明確化は社会のコストを引き下げることが議論されている。規制で助かる人の影に、「見えにくい」「負担を押し付けられた」人がいることがよくわかる。蔵さんやL@Jの取り上げる「見えるものと見えないもの」と同じである。


短期賃借権が日本の借家制度をいかに歪めているかを分析している。ここで民間競売と司法競売の比較が出てくる。理念的には、リバタリアンにとって新しくないことだろうが、日本に置ける問題点(妨害)の解説は興味深い。


マンション立て替えと規制の関係に付いては、著者自身が深く関わったようである。個別の所有と共同所有(この場合マンションに置ける所有権で議論されている)の問題は、共有地の悲劇とも関わる問題でもある。また、政府の規制がいかに人々の行動に影響を与えるかのよい実例でもある。仮に政府の規制がいっさいなく、マンション立て替えの意見がまとまらない場合、リバタリアンならどう解決するかというのは面白い問題だと思う。


最後に行政訴訟に付いて。これは政府の肥大化の実例としか言いようがない。著者自身がかつて行政サイドにいたことも話をわかりやすくしている。著者はヘドニック法による費用便益分析を行政に義務づけ、司法はそれをチェックするという形を持ち出しているが、それでも民間の効率の良さにはかなわないと推察するがどうだろうか。


あまりリバタリアニズムと関連して紹介されることはないようだが、おすすめの本である。リバタリアニズムに興味はなくても法と経済学に触れてみたいという人にもおすすめである。