自由市場の道徳性(4回目)

第四部は第7、8、9、10章からなる。自由主義で取り上げることの多い問題の各論と言った趣である。
第7章では、福祉国家を扱う。貧困層が多かった19世紀に比べ格段に豊かになった現代で政府支出の半分を*1占めるようになったことをシャンドは指摘する。そして福祉に賛成あるいは反対する論者の意見を列挙していく。そして英国の医療保険制度を例にとって自分の考えを述べていく。
第8章では、失業・インフレーションを考察している。需要管理を政府が行うのが適切かという論点のみならず、オーストリア学派独特の個人主義からの視点も提供されていて興味深い。フリードマンケインズといった視点からの貨幣論・財政論も面白いが、オーストリア学派の考えに簡単でも触れてみるのは有意義だと思われる。
第9章は経済成長を扱う。ここでもオーストリア学派独特の個人主義が顔を出す。環境問題もここで扱われている。
第10章は結論的覚え書きで、今までの核問題をもう一度整理している。

全体を通しての印象は、訳本にありがちな読みにくさはあるものの、対立意見をうまく整理したというもの。自由主義が向き合うべき論争に付いて整理したい人におすすめする。

*1:シャンドにとっての自国での話であろう