自由市場の道徳性(3回目)

第三部は第5章と第6章からなる。
第5章のテーマは「自由」である。自由の定義が多様であることを述べ積極的自由と消極的自由と言うリバタリアニズムの定番のテーマを取り上げる。次にシャンドはオーストリア学派の考える自由に付いて言及し、ここで福祉と自由主義の関係について考察している。重要なポイントだと思うので引用してみよう。

ミーゼスの答えはこうである。資本主義は困難を軽減するために二つのやり方で作用する。第一は、その疑う余地のない富の生成能力をつうじてーーーすべての増大した産出量が少数の非常な富者のもとに向かうというあまりありそうでない事態をのぞけば資本主義はあらゆる生活水準を向上させる。第二に、豊富さの増大は利他心がいっそう有効に働くことを可能にし、それによって困難が緩和される、と。


この記述はいまだ自由主義が誤解されている部分を簡潔かつ正確にまとめた部分と言えよう。

次にシャンドはハイエクの考える自由、自由と法の関係に付いてまとめる。民主主義は自由主義に対する脅威であると前置きした上で、シャンドはハイエクによる民主主義の正当化の要点を列挙していく。さらにハイエクの「法の支配」に対する信頼について考察する。ここではハイエクの複雑な立場を簡単にまとめている。それは自由の支持と伝統への信頼である。伝統とは進化してきたルールと制度のことである。自由と伝統は衝突することがあり、「自由を保障する手段としてではなく、強制を最小化する手段」とする。さらに集産主義の自由を積極的自由とし消極的自由と対比する。またロスバードの定義する自由を考察に加える。次いで資本主義と自由の関係、自由に伴う責任を考察する。

この第5章は自由の定義が様々であること、集産主義者からの反論などがコンパクトにまとめられていて自由に付いてのよい入門となっている。ただし、各論者の主張のアウトラインが頭に入っていないと逆に混乱するかもしれない。

第6章のテーマは平等である。平等は自由以上に定義が様々であることから話は始まる。結果の平等は自由と衝突することを述べ、機会の平等も簡単には実現しないことに触れる。次にオーストリア学派の中でもミーゼス、ハイエクの見解に付いてまとめている。これと対比して平等主義の意見をまとめる。

この反対意見に付いても簡潔な要約となっている点で第三部は必読と言える。