医療崩壊

医療崩壊という言葉がある。産科、小児科、夜間救急などの現場で仕事があまりにもハードな上に訴訟も多く、その割に仕事に見合った収入が得られないといった理由から医師を中心とした医療スタッフがその現場を離れてしまうことを言うようだ。
思ったことはいくつかある。
一つ目。まず、需要(患者サイド)はあるのに供給(医療サイド)がないのはなぜかということ。経済学の基本的な前提からすれば、需要はあるのに供給されないのは、価格が固定されているからである。つまり保険診療だからだ*1。市場のメカニズムが働けば、受診の際の費用が増えることで需要も減り、供給も増え調整される*2。また、別の問題として医師の総数も国から制限されていることが挙げられる。これでは供給の増えようがない。
別の角度からみると、経済学でいう公共財問題に当たると考えることもできる。自分が支払う額は少ないあるいは無料*3から、無制限に近いアクセスが発生する。自己負担をあげるあるいは完全に自由診療にしてしまうという解決方法もあるが、日本の現状では受け入れられまい。妥協案として夜間救急の自己負担をあげることも必要かもしれない。
二つ目。リバタリアニズムに分類される書物を思い出した*4アイン・ランドの「肩をすくめるアトラス」である。山形浩生氏には酷評されたが、少なくとも今の小児科医がいなくなった、産科がなくなったなどという話はかなり通じるものがあると思う。ランドのように、そのままその地域の医療が崩壊すればいいとは思わない。ただ、少なくとも給料という報酬以外に「熱意」で頑張っていた医師たちに対して、ランドの表現を借りれば社会が「たかっていた」のが崩壊の原因の一つだと思う。医療だけを聖域化するなと言う人がいる。そのような人は決して「医師は24時間対応するべき」などと言わないに違いない。

*1:産科については正常な出産は保険適応ではないが、後から支払われる出産一時金が似たような役割をしているためほぼ同じと考えていいだろう

*2:倫理的な面から、受診の際の費用を簡単に引き上げていいかという問題はあろうがここではメカニズムのみに注目することとする

*3:少なくとも東京都は乳幼児医療は無料である

*4:著者本人は客観主義と言っていた