恐山

少し前に青森の恐山を訪ねた。あまり宗教的なことに興味がない筆者にとっても行ってよかったところだと感じた。まず、本州のほぼ最北端(だいたいだけど)というロケーションがよい。車で行くとまさに「地の果て」という場所である。八戸を抜け、むつを抜けるとだんだんと周辺の状況も寂しくなってくる。舗装された山道に入ってしばらく走ると何丁目、という数字が減ってくる。これは恐山までの距離なのだろうが、なかなかの演出。
恐山の手前で最初に目に入るのが「三途の川」。ちゃんと橋も架かっている。まさにこの世とあの世の境ではないか。川自体は恐山の前に広がる湖から流れ出ているのだけれど、湖自体も静かで妙に明るく、非日常的である。
もう少し走って、恐山のお寺の前に車をとめる。門前にはたいてい土産物店が並んでいるのだけれど、ここには寂しくぽつんとしたかんじであるだけ。携帯の電波も入らない。
山門をくぐるとお寺自体は落ち着いた感じであるが、わいわいと騒ぐ人はいない。みんな雰囲気にのまれている。本堂の横からいわゆる「地獄」に入る。別に鬼がいるわけではなく、風景としては、硫黄の臭いがして、あちこちから湯気が立ち上る、雲仙と似た感じ。だが、独特の寂しい感じが全く違う。怖いというより寂しい感じなのだ。荒涼としたとはこのことか。夜になったら怖い感じがどんどん出てくるのだろうな、昔の人はここを見て地獄を想像したんだろうな、などと考えながら進む。人為的におかれたものが仏像くらいなのもかえって良い。アトラクション的に鬼の像などがおかれても興ざめだろう。
あってないような順路に従ってしばらく歩き回り、高台に誘導されると、先ほどの湖とその周辺の浜に相当する部分が目に入る。極楽浜というらしい。これもすばらしいネーミング。地獄を歩き回って疲れた頃、静かで明るい浜が目に入る。あの海(ほんとうは湖だけど)を渡れば極楽に行けるのかもという気持ちになるのだ。那智に「補陀落渡海」という南の海の果ての補陀落浄土を目指す信仰があるがそれを無意識に思い出したのかも。浜には、線香の代わりか、葦のような植物の茎がたてられている。ちなみに、この湖は強酸性であまり生物がすんでいないそうだ。それでかえって妙にきれいな感じがあるのか。
その他、恐山で目立つのは、あちこちで石の間にさされている風車。亡くなった子供を供養するためのものだそうだが、からからと回る姿は寂しい感じに拍車をかける。供養のための風車、わらじ、手ぬぐいなどは、恐山のだいぶ手前、横浜町の道の駅で売っていた。必要な方は休憩がてらご購入を。