定義はやはり大事かも

ずいぶん前に蔵さんが「もっと厳密に、その曖昧(でペダンティックな)言葉を定義してから書いてくれよ!と感じるのだ」と書いていたことがあって、それなりに納得はしていたのだが、最近改めて思うことがあった。学術的な話ではないがちょっと書いてみたい。

例えば、「強い薬」という表現だ。これは何を意味しているのだろう。期待する効能が強いということだろうか。強いというのは、短時間で疾患を改善するという意味で良いのか。しかし大半の人は副作用が強いという意味で用いているようにも思える。また効用が強い薬は副作用も強いと思い込んでいる人は多いがこれは完全な間違いである。期待する効能と副作用のバランスについても例えばLD50と有効血中濃度を比べている人はほとんどいない。副作用の頻度と程度を効能と天秤にかけるべきだが、そのようなことができる人はあまりいない。
ありがちなのが抗菌薬に対する「強い薬」という表現だ。副作用の頻度が多い、副作用の程度が強い、殺菌能がシャープである、抗菌域が広いなどといういくつかの意味で使われがちである。それぞれ統計的な頻度、副作用のグレード分類、MIC、抗菌域(スペクトラム)などがちゃんと定義されている。専門家ではない人に説明する場合でも、せめてどのような視点で強い薬かはっきりさせるべきだろう。ちなみに、抗菌域が広い、つまり色々な細菌に対して効果を発揮する薬物の殺菌能がシャープであるとは限らない。例えば大部分のグラム陽性球菌をカバーするバンコマイシン*1の切れ味は決して良くない。むやみに「強い薬」を恐れるのも逆に欲しがるのも意味がないと言えよう。

話は飛ぶが、このような定義を明確にして議論をするというのは、衒学的な趣味の人とは極めて相性が悪いように思う。理系と文系という区別より、遺伝的に規定された思考パターンの違いではないかと思う*2

*1:MRSAに効果が期待できる

*2:かなり衒学的な記述ではありますが