本当に道徳なのか

以前、「金にこだわるのはおかしい」という内容のコメントを某所で頂いたことがあり、ずっと気になっていた。「リスクに背を向ける日本人」を読んで頭が整理できたのでまとめてみる。

本書では、倫理観を二種に分けている。統治の倫理と市場の倫理だ。これは、元々ジェイン・ジェイコブズが提唱した考えで、本書では武士道と商人道という比喩が与えられている。上の言うことが絶対で、無私を尊ぶのが統治の倫理。自己利益を追求すると自然に双方の利益になる市場の倫理。

多分、「金にこだわるのはおかしい」というのは、集団主義的な、本書で言うところの「統治の倫理」なのだろう。本書でも指摘されている通り、現代では統治の倫理には限界がありほころびが目立つようになっている。また、金にこだわるのはおかしいという言説で被害を被るのはむしろ労働者たちだろう。ちょっと極端な例を持ち出せば、労働者が給与をもらう段になって「お金にこだわるのはおかしいでしょう、あなたの給与は10分の1にします」と言われて納得せざるを得ないということだ。
日本国内ですら知らない人とも商行為をしなければならない時代である。そのとき求められるのは契約の遵守、法の支配だ。