選挙の経済学

typeAさんが「Nudge」を取り上げたので、ちょうど読了した本を紹介。
著者は公共選択学派のリバタリアンとして有名なブライアン・カプランである。タイトルからは想像もつかないほど様々なことが詰め込まれていて、どの部分を取り上げるかだけでも色々なエントリーがかけそうである。
従来の公共選択学派は、一票の与える影響力の小ささから「合理的な無知」が発生することが民主主義の失敗の原因であると考えている。著者も民主主義はうまく機能するかという問題意識を持っているが、更に市場と比較してどうか、と本書の後半で問いかける。著者自身は、民主主義の失敗の原因を次の4つのバイアスに求める。反市場バイアス、反外国バイアス、雇用創出バイアス、悲観的バイアスである。このバイアスの解説の部分だけでも本書を読むのに値する。また、後半においては、リバタリアニズムの伝道師らしく、他人に教えるときの心得も強調されている。
歴史的にみれば、民主主義が個人の自由を拡大してきたことは事実である。しかし多数派の意思を少数派に押し付けるという側面があることは否定できない。究極的には個人の自由と民主主義は両立しないのである。カプランと同じく、読む人が市場へのバイアスを少しでも減らしてくれることを願っている。
最後に、原文も難しく訳者のみなさんも翻訳に苦労されたようで、実際、読みにくい部分もあるが、素晴らしい本である。ぜひお勧めしたい一冊である。